キアゲハはパセリやニンジンなどセリ科の植物に、モンシロチョウはアブラナやキャベツなどに卵を産みにやってきます。これらの植物は、そのチョウの幼虫が食べる「食草」です。卵からかえったばかりのチョウの幼虫は、自分で食草を探すことができないので、卵を産み付ける植物を間違えれば幼虫は死んでしまいます。チョウのお母さんは、数ある植物の中からどのようにして我が子の食草をみつけだすのでしょうか?
チョウのメスの成虫は、視覚や嗅覚を使って食草の周辺に飛来し、最終的には前脚の先で植物を何度かたたき、食草に違いないかを確認するようです。食草にはそのチョウの産卵を刺激する特定の成分が含まれていて、前脚の先にその化合物を感知する仕組みがあることがアゲハチョウの仲間では確認されています。
ところで食草になってしまう植物は、昆虫などに食べられるのをじっと我慢しているわけではありません。例えばクスノキは、自分が昆虫などに食べられないように、強力な防御物質を大量に作っています。この防御物質は昔、衣類などの防虫剤である「樟脳」として利用したほどです。また、カイワレダイコンやアブラナなどの葉には、ツーンとする辛味成分がありますが、これもアブラナ科の植物が作る防御物質と考えられます。他の植物もそれぞれに、カビや細菌などの微生物の侵入や、昆虫や草食動物の食害を防ぐための様々な物質を作っているとされています。
しかし、その防御物質もいつまでも食べられないようにする効果が続くわけではありません。アオスジアゲハの幼虫は、クスノキの葉を食べて育ちます。モンシロチョウの仲間の幼虫は、辛い葉っぱも平気で食べます。そのうえジャコウアゲハにいたっては、鳥やけものにとっても毒のあるウマノスズクサという植物を食べて育ち、幼虫も蛹も成虫もその毒成分を体にもっていて、自分たちが鳥に食べられるのを免れていると言われています。
これはある昆虫の食草である植物が、食害を避けられるような防御物質を作り出すようになると、今度は昆虫がその物質を消化・分解できるような力がつくように進化するためです。このような「食べるー食べられる」をめぐるイタチごっこが何千万年にわたって繰り返される過程は、植物とそれを食べる昆虫が様々な種に分かれてゆく一因といえます。
さて、オーストラリアの熱帯雨林にすむトリバネアゲハという希少なチョウの一種は、ウマノスズクサの仲間の在来種1種のみを食草としています。しかし近年、観賞用に移入された外来種のウマノスズクサが野生化して分布を広げ、メスは外来種を在来種と区別できずに卵を産んでしまうそうです。このトリバネアゲハの幼虫にとって、たとえ良く似ていても別の種である外来種は食草として利用できないのです。トリバネアゲハ絶滅の危機は、長い歴史をかけて築かれたチョウと食草との関係を、人間が侵してしまった残念な例です。
※写真のトリバネアゲハは、文中のトリバネアゲハとは別の種です。
(参考文献)
『共進化の謎に迫る 科学の目で見る生態系』(1995年)高林純示ほか. 平凡社.
『共進化の生態学』(1998年)種生物学会編. 文一総合出版.
「チョウの味覚から種分化を探る」『生命誌ジャーナル2006年秋号』(2006年)尾崎克久. JT生命研究館.
Dutchman's pipe -Aristolochia elegans, Weed risk assessment (2009), Queensland Primary Industry and Fisheries, Queensland Government.


















