報告件数:318件

 
図1:ツマグロヒョウモンの調査結果(2009年度いきものみっけ)
図1:図1. ナガサキアゲハの調査結果(2009年度いきものみっけ)
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図2:ツマグロヒョウモンの調査結果(2009年度いきものみっけ)
図2:1998年におけるナガサキアゲハの分布(環境省第5回自然環境保全基礎調査)
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ナガサキアゲハは、近年、その分布を北へ拡大しているチョウです。1980年頃までは、和歌山県から大阪府より西の地域に分布していましたが(福田ら, 1982)、現在では神奈川県や東京都でもナガサキアゲハはふつうに見られます。2009年いきものみっけでは、関東地方の特に北部からの報告に注目し、北はどの辺まで分布しているのかを調べました。

図2は、環境省の第5回自然環境保全基礎調査におけるナガサキアゲハの分布です。この図は1998年までの分布の記録で、太平洋側の最北の記録は愛知県南部、日本海側では福井県です。2009年のいきものみっけの結果(図1)では、太平洋側は茨城県、栃木県まで分布しています。日本海側は福井県で、1998年までの分布と変わりませんでしたが、太平洋側は明らかに分布が北へ拡大していることがわかりました。また、首都圏では特に報告数が多く、ナガサキアゲハの定着は確実と言えます。

2009年のいきものみっけの最北の報告は、茨城県常陸太田市でした。茨城県では、2000年以降、目撃(幼虫を含む)や採集の記録があり、最北の採集記録は、常陸太田市に隣接する大子町です(井上ら, 2008)。栃木県からの報告は3件あり、そのうち1件は壬生町からで終齢幼虫を確認した報告でした。2件は南部の小山町からの報告で、「数年前から見られ、今年は急増」というコメントがありました。同市では、2009年にナガサキアゲハが急増し(青木, 2010)、同年7月に幼虫が確認されています(2009年8月22日付け下野新聞)。

日本海側の最北の報告は、福井県越前市からありました。「自宅のレモンの木にいた幼虫が羽化した。長年住んでいるこの土地で初めて」とコメントがありました。福井県におけるナガサキアゲハの最初の記録は、1993年三方町においてで、その後1999年に敦賀市などで確認されていますが(下野谷, 2000)、越前市は敦賀市よりさらに北に位置します。日本海側でも、食樹であるミカン科の果樹が栽培されている場所をたどって、少しずつ分布が北上しているのかもしれません。

以上のように、件数は多くないものの、太平洋側、日本海側のそれぞれの分布の北限地域の状況を反映した情報もいきものみっけに寄せられました。今後も、分布の北限地域からの情報に注目していきたいと思います。

(解説)

北原ら(2001)は、ナガサキアゲハの分布の北上と気候温暖化、特に最寒月の平均気温の上昇には強い関連性があることを示しました。しかし、岡山市に分布の北限があった1970年には、すでに浜松、横浜、東京の年平均気温は岡山より高く、当時の分布北限よりも北にナガサキアゲハが生息できる温度環境が整っていたとしています。したがって、1970年以降の東海地方〜関東地方への分布拡大の範囲や速度は、幼虫のエサになるミカン科の栽培植物の分布状況できまっていたであろうと推測しています。

ナガサキアゲハの食樹は、栽培種のミカン類やカラタチにほぼ限られます。今回のいきものみっけでは、最北の報告は茨城県と福井県でしたが、さらに北の福島県にはユズの栽培地があり、新潟県佐渡島ではミカンを栽培しています。しかし、ナガサキアゲハの定着には、冬の気温や食樹がある程度まとまった面積で連続して分布するといった条件がそろう必要があると思われ、当面は、ナガサキアゲハの分布の北限がさらに北上を続けることはないと考えられます。

※図1は「地球地図日本(簡易版)」バージョン1.1を使用して作成

引用文献
福田晴夫ほか (1952) 原色日本蝶類生態図鑑Ⅰ: 114-118. 保育社.
井上大成・植村好延・久松正樹(2008)茨城県におけるナガサキアゲハ(チョウ目:アゲハチョウ科)の記録.茨城県自然博物館研究報告(11): 17-20.
青木好明 (2010) 2009年、栃木県小山市でナガサキアゲハが急増. インセクト60(2): 109-110.
下野谷豊一 (2000) ナガサキアゲハの福井県への侵入. 昆虫と自然35(4): 18-22.
北原正彦・入来正躬・清水剛 (2001) 日本におけるナガサキアゲハ(Papilio memmon Limmaeus) の分布の拡大と気候温暖化の関係. 蝶と蛾(日本鱗翅学会誌) 52(4): 253-264.