報告件数:565件

●分布について

クマゼミは、西南日本に代表的なセミですが、近年は関東地方にまで分布が拡大しているとして注目されています。2009年いきものみっけでは、2008年に引き続き、クマゼミの分布が広がっているのかを調べました。

図2は、1995年に実施された環境省の第3回身近な生きもの調査の結果、および林(1991)によるそれまでの分布調査の結果(地図中の緑色の●)と、2008年いきものみっけの結果(地図中の橙色の●)を示した分布図です。これと2009年いきものみっけの結果(図1)を比較すると、分布の状況はほぼ等しく、この18年間では目立って分布が北上したとはいえないようです。しかし、東京都や神奈川件からの報告には「ここ数年で声をよく聞くようになった」というコメントがいくつかありました。20年以上前から関東地方で確認はされていたが、関東南部において、発生量が増加して頻繁に鳴き声が聞かれるようになったのは、ここ10年くらいのことではないかと思われます。

2009年の報告の最北は宮城県松島町でした。新潟県は新潟市と長岡市から報告がありました。太平洋側の分布の北限とされている関東北部では、茨城県から8件の報告がありましたが、栃木県、群馬県からの報告はありませんでした。2008年のいきものみっけでは、クマゼミの報告が約1400件寄せられましたが、2009年は565件と2008年よりも報告件数が少ないものでした。初宿(2009, 未発表)によると、大阪市内の4つの公園において行っているクマゼミの抜け殻調査では、2009年の抜け殻の数は2008年よりも明らかに少なかったそうです。報告数だけでクマゼミの発生量をはかることはできませんが、もしかしたら2009年は、2008年に比べてクマゼミの発生量が少なかったり、発生のピークが分散してしまったのかもしれません。

●初鳴き日について

2009年のいきものみっけの報告の中で、「今年初めて聞いた」としている報告の日付を「初鳴き日」として旬別に示したのが図3です。また2008年いきものみっけの報告から、各市町村の最も早い報告日を抽出し、それを「初鳴き日」として月旬別にしたのが図4です。これをみると、全体的に2009年は2008年よりも初鳴きの時期が早かったようです。2008年と2009年の初夏の気温を比較すると、5月・6月の全国平均気温は2009年の方が高く、特に5月は平年値より1℃近く高い結果となりました。クマゼミが羽化する前のこの時期の高温が、2009年の発生を早めた1つの要因と考えられます。

(解説)

かつては近畿地方より西に生息していたとされるクマゼミの分布が、1990年代に関東地方南部まで北上するのに、どのような経過をたどってきたのかは、はっきりとわかっていません。東京都では、橋本(1979)が1979年に東京都の代々木公園でクマゼミの発生を確認していますが、発生量が著しく増加したのは比較的最近のようです。またもともとクマゼミが生息していた大阪では、1990年代にはクマゼミが以前より増えたと言われており、大阪市内で行ったアンケートの結果によると1980年頃からクマゼミが増加したようです(沼田・初宿, 2007)。

現在、埼玉県や千葉県などでは、都市部にはクマゼミが定着しているといえますが、クマゼミが十分生育できる気温であっても人口が多くない地域にはあまり生息していないようです。

クマゼミについては、気温の上昇と分布北上の関係だけでなく、発生量の増加の状況や、都市化と分布拡大の関係にも注目する必要があるでしょう。

※図は「地球地図日本(簡易版)」バージョン1.1を使用して作成(図2を除く)

引用文献
林正美 (1991) 日本産蝉の分布調査報告(3) −ニイニイゼミ属、ケナガニイニイ属、クマゼミ属--. 日本セミの会会報 10(1/2): 21-29.
橋本洽二(1979) 東京にクマゼミ発生. 日本セミの会会報 1(3): 39-43.
沼田英治・初宿成彦(2007) 都会にすむセミたち 温暖化の影響?. pp162. 海遊社.