富士山のふもとにある生物多様性センターは冬の間はとても寒い場所ですが、最近になって朝晩の冷え込みが緩く、日差しが暖かい日が増えてきた。セン ター周辺のフキノトウがだいぶ膨らんで、だいぶ遠かった春の足音がだんだんとはっきり聞こえてくる。冬の間、茶色や濃緑色などの単調でトーンの暗い色彩 だったフィールドも、これから次第に色鮮やかになってゆくだろう。まさにいまは、一年で一番うれしい季節の入口だ。

さて、自然界には実にたくさんの色があふれている。単純に緑色といっても、若葉の緑、アマガエルの緑、メジロの緑等々、濃かったり淡かったり、実に 多彩な緑色がみつけられる。幸い私たち人間は、色を見分ける能力が比較的高い生物(犬や猫は意外に彩度の低い世界で生きているそうだ)なので、この自然界 の色彩の多様性の高さを、いろいろな恩恵として享受することもできる。たとえば人間は、自然から学びとった色彩や、色から自然物をイメージして、生活や文 化に活かして来た。いろいろな地域や民族で異なった色使いがあるのは、その土地の自然が背景にあるんじゃないかなと感じる。

私たち日本の色表現にもいろいろと「いきもの」からとった名前のものが多い。先ほどの緑を取り上げても、浅黄色(葱(ネギ)の葉の色を薄くしたよう な青緑)や木賊色(とくさいろ)、山葵色(わさびいろ)といろいろある。面白いのは「えびいろ」で、これは青紫っぽい色をしている。実は古くはブドウのこ とを「えび(葡萄)」(今でもブドウの仲間の植物で「エビヅル」などの名前が残っている)と呼んでいて、えび色はブドウ色のことを指す。そして、海でとれ るえび(葡萄)色の「いきもの」が「エビ(海老)」というわけ(注1)。ブドウとエビの意外な関係。ちなみにランの仲間エビネは、根っこの形が海老に似ているからとのこと。ややこしい。

自然から色を学ぶといえば、私の席の前に座っている「いきものみっけ」担当のOさんの服装が気になる。彼女の服装の色使いは、なかなか趣味がよく上 手だなと思うのだが、その色づかいを実はいきものの世界で探すと、たいてい見つかるんだな。たとえば、とある日の辛子色に黒、白の組み合わせはセイヨウオ オマルハナバチ。黒に青磁色の組み合わせは、ラミーカミキリ。他にはマイマイカブリとかヨツボシノメイガの日もありましたっけ(どんな色合いかは図鑑で調 べてね)。おしゃれな色使いも、いきものはかせの「みっけアイ」を通すと「いきもの」に・・・。褒め言葉もいきものの名前になって、いやはやなるほど僕は モテナイわけだ。

注1
新井白石の著書には、「エビは其の色の葡萄(えび)に似たるをいい、海老の字を用ひしは、その長髯傴僂(長いひげ)たるに似たるゆえなり」との記載がある。
石塚あらた
環境省生物多様性センター技術専門員。同センターにおいて「いきものみっけ」プロジェクトや自然環境保全基礎調査業務などにかかわる。専門は昆虫学、特に河川に住む流水性昆虫に興味がある。最近のマイブームはシラスに混じる他のいきものさがし。