山の木々が葉を落とし、朝には霜がおりて、富士山のふもとにある生物多様性センターは本格的な冬が訪れようとしている。冬のセンター周辺は静かでと ても寒く、空気がピンと澄んでいる。そんな中を白い息を吐きながら散策するのは、夏の頃とは違って命のにぎやかさこそ感じにくいけれど、不思議と落ち着い た気持ちになれるので悪くない。ただ、とにかく寒いのでお腹がやたら減るんだな...。という事で今回はちょっと美味しい生物多様性の話。
私たちの生活は、様々な生物多様性の恩恵によって支えられている、衣・食・住のどれをとっても生物多様性を抜いて考える事はできない。その恩恵につ いて分かりやすいのは、「食」の部分だろう。生物多様性は、私たちの「食」に関して、生きるためのエネルギー源を供給してくれるだけではなく、食文化を育 み食卓に彩を添えてくれる。うーん、ちょっと話が難しくなってきたので、手っ取り早く、生物多様性の恩恵を感じる事のできる「生物多様性鍋」でも作ってみ ますか?
まずはダシをとろう。カツオとコンブの合わせダシ。日本近海のコンブの仲間は約45種が知られ、その中でもダシに最適なのはマコンブ(コンブ科)と いわれる。鰹節はカツオと鰹節菌類と呼ばれる微生物によって作られる発酵食品(ちなみに世界一硬い発酵食品といわれている。知ってた?)。念入りにダシを とったら、さあ、具材を入れよう。
鍋の定番野菜である白菜はアブラナ科の栽培種。ネギはユリ科ネギ属に属する栽培種で中国西部が原産地といわれている。独特の風味がたまらない春菊は キク科の野菜だ。キノコも入れよう。ご存じのとおりキノコは菌類に分けられる「いきもの」で、世界には約1000種の食用キノコが知られている。シイタケ はヒラタケ科、エノキダケはキシメジ科だ。鍋の主役はやっぱり魚介類かな。カニやエビは節足動物だ。ズワイガニはクモガニ科、タラバガニ(タラバガニ科) は、カニと名前は付いているけれど実はカニではなくヤドカリに近い「カニ型ヤドカリ」だ。魚もおいしい。タラはタラ科の魚で、日本近海にはスケトウダラや マダラのほかにも約90種のタラ科の仲間がいる。このほかにもカキ(イタボガキ科)やホタテ(イタヤガイ科)など、いろいろな魚介類を入れるのは見た目に も楽しい。そうか、この焼き豆腐もダイズ(マメ科)のおかげだった。
すべての具材に、程よく火が通れば出来上がり。うーんおいしそう。実に13科15種以上の「いきもの」のおいしさが詰まっている「生物多様性鍋」 だ。ん?これではただの寄せ鍋じゃないかって?そう、まったくその通り。でも、こうやって日常の食卓にあがる普通の献立が、生物多様性の恩恵無しでは成立 しないものだったりするのだ。つまり生物多様性をないがしろにすれば、その時点で私たちの食卓がとても味気の無いものになるということ。これからは季節の 味覚を楽しむとき、少し生物多様性について考えても良いかもしれない。おっと、せっかくの多様性鍋、そしてお供に用意した米とコウジカビと酵母の恩恵、日 本酒の熱燗が冷めてしまうのでこのへんで。
- 科:
- 生物を分類する際に用いる階級の一つ。科のほかには界・門・綱・目・(科)・属・種等の分類階級がある。例)動物界 節足動物門 昆虫綱 チョウ目 アゲハチョウ科 アゲハチョウ属 クロアゲハ
- 石塚あらた
- 環境省生物多様性センター技術専門員。同センターにおいて「いきものみっけ」プロジェクトや自然環境保全基礎調査業務などにかかわる。専門は昆虫学、特に河川に住む流水性昆虫に興味がある。最近のマイブームはシラスに混じる他のいきものさがし。

















